いけちゃんの悪戯

日々のことをツラツラと綴るブログ

美しき絶望の世界 ヴォネガット初期2作に寄せて

これまでのエントリにも少しずつ言及していたことなんだけど、今年に入ってからカート・ヴォネガットの作品に手を出している。

読もうと思ったきっかけは、だいぶ昔(たぶん大学時代)に買ったヴォネガットのエッセイ『国のない男』を積ん読本の群れから見つけ出したこと。あと、同じく積ん読本に埋もれていた『タイタンの妖女』が予想以上に面白かったから。So it goes. そういうものだ。

ちなみに上に述べた『タイタンの妖女』は本当に素晴らしかった。詳しい感想をまだ書くことができていないのだけど、今年2019年に入ってから読んだ本で最も印象に残っている一冊は今のところコレである。

f:id:chan1ke:20190317151933j:image

諦めること、受け入れること

それはさておき、今から扱うのはヴォネガットの『スローターハウス5』だ。

 

作家の「わたし」は第二次世界大戦について語る。語られる物語がまさしく『スローターハウス5』なのだが、いわゆる小説内小説/メタフィクションの形式を取っている。主人公ビリー・ピルグリムは生涯における過去/未来を行ったり来たりする時間旅行者だ。ある時は、第二次大戦中の兵卒だった時代へ。ある時は妻と過ごした時代へ。またある時ははるか彼方の惑星に拉致されていた時点へと縦横無尽に駆け巡る。しかも、この時空を飛び越えること自体ビリーがコントロールすることはできない。しかも、この能力に目覚めたキッカケとかもだいたい謎である。

ここで酷なのは、ビリーは自分が死ぬ瞬間までの「未来」を全て知っていることである。

  神よ願わくばわたしに

  変えることのできない物事を

  受けいれる落ち着きと

  変える勇気と

  その違いを常に見分ける知恵とを

  さずけたまえ

 

ビリー・ピルグリムが変えることのできないもののなかには、過去と、現在と、そして未来がある。

「過去は変えられない。ただし、現在と未来は変えることはできる。」なんていう言葉をよく聞く。この言葉に対して「未来はこれからいくらでも変えられるよ!」と信じたい自分もいれば、頭のどこかで「実は未来は変えられないんじゃないか」と諦めている自分もいる。これはたぶん事実だ。だって未来が変わったかどうかなんて究極的に誰も分からないわけだしね。そして、刻一刻と過ぎ去っていく「今」もまさにリアルタイムで自分のなかで失われていってる訳でそれもまた切ないものだ。

だけど、変えられないからといって諦め、嘆くことと楽しめないことは必ずしもイコールではない。大切なのは「一回切りの修正不可能な一生を受け入れる。そして自分自身の生涯を肯定し続けること」であって、「自分には実はなにも変えることができないんじゃないか」という諦めと、それでも「自分の人生はなかなか良いもんだ」と受け入れることって実はセットな気がするんですよね。

そして、この諦めってなんとなく「絶望」って言葉が当てはまるよなーって考えたりもしてる。ヴォネガットは人類への絶望をユーモラスに描いた作家ってネットとかには書いてあって、すこーしだけどその言わんとしていることが分からんでもない。

「すべてはたいそう悲しかった。しかし、すべてはたいそう美しかった。」

以前に高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を観たんだけど、あれもまさに「絶望なき完璧な死の世界」を選ぶか「不完全で絶望もあるけど生の溢れる世界」を選ぶか否かの話なんですよね。たぶん人が生きてて辛いこととか上手くいかないことってたくさんある。むしろ、人生ってそういう場面の方が多いんじゃないだろうか。でも、だからって生きることをやめる理由にはならないし、絶望するときがあるからこそ、世の中が美しく見えるときって絶対あると思っている。

『タイタンの妖女』ではそのことがストレートに描かれていて、 上の見出しの一節も僕がグッときたものの一つだ。本作は、主人公が自分の運命に1ミリも逆らえないという話なんだけど(まさに絶望ですよね)、どうしようもない悲しみゆえに感じる世界の美しさってこういう物語じゃないと語り得ない。

主人公が友達も誰もいない宇宙へ飛び立つ寸前に、ふと地球の美しさを見て泣きそうになるシーンとかね。読んでて泣いてしまいます。

きっと、ヴォネガットも戦争とかを経験して、自分の人生にはほとほと絶望していたんだと思う。それでも世界に美しさが残っているって考えていて、その考えってやっぱりロマンチックだ。まだ読んでいない人にはぜひぜひ読んでみてもらいたい一冊であった。

 

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,浅倉久志
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/02/25
  • メディア: 文庫
  • 購入: 28人 クリック: 109回
  • この商品を含むブログ (67件) を見る
 

 

 

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)