いけちゃんの悪戯

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【感想】映画『愛がなんだ』を観て。

私を捉えて離さないものは、たぶん恋ではない。きっと愛でもないのだろう。私の抱えている執着の正体が、いったいなんなのかわからない。けれどそんなことは、もうとっくにどうでもよくなっている。 

 先日、東京に行ったついでに今泉力哉監督『愛がなんだ』を観てきました。広告や予告をみてとても気になっていた作品だったのですが、如何せん僕の住んでいる場所が場所なので(北海道のど真ん中!)なかなか映画館まで足を運ぶのが億劫だったり。ようやく観ることができました。

アラサー女子の片思い映画

本作は角田光代さん原作小説の映画化で、今回映画館まで観にいくにあたり、ちゃっかり原作も目を通しています。結論として、原作と映画版のどちらが個人的によかったと問われると答えるのがちょっと難しい。映画もとても魅力的でしたが、原作小説も非常に味わい深い。実は角田さんの本を読むのが今回が初めてで、どういった物語を書いている人なのかという予備知識もまったくない状態だったのですが、読んでいてグッとくる言葉やシーンがたくさんありました。これで個人的には、角田光代信者に一歩近づいたという感じですかね。調べてみて、「読みたい!」と思った作品がけっこうあります。

さて、『愛がなんだ』です。物語としてはアラサー女子の片思いを描いた作品だ。主人公のテルコは誰かを好きになると自分の仕事であったり、生活であったり、相手以外のことすべてが「どうでもよくなってしまう」タイプの女の子だ。そんなテルコは友人が誘ってくれたパーティーで田中守(通称マモちゃん)に恋をしてしまう。テルコはマモちゃんの言うことならなんでも聞いてしまう「超ふりまわされ」な性格で、日常生活のことすべてがマモちゃん最優先。挙げ句会社をクビになったりするが、テルコにとってそんなことはほんの些細なことに過ぎない。テルコにとってマモちゃん以外、世の中のことは「すべてどうでもよくなっている」からだ。それは、0か100かの問題なのである。しかし、哀しいかな。テルコは田中守の恋人ではない。

このテルコのマモちゃんに対する執着は、物語の終盤では「マモちゃんのそばにずっと貼りついていたい」、もしくは「マモちゃんそのものになりたい」という次元にまでエスカレートしていく。その想いはもはや、単純に「恋愛」と呼ぶにははばかれるカテゴリーに分類されるものだろう。しかし、この『愛がなんだ』は恋人ではないけど、セックスはするし、他の友人よりかは割りと親密な関係を築いている男女の物語でもある。いわゆる「大人の」人間関係を描いたストーリーであり、世の中こういう関係って普通にあるよねって感じがする。そして、そこにある二人の関係というのは「恋愛」とか「彼氏」「彼女」なんていう言葉で安易に一般化できないものだと、僕は思っている。

 

 

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 

 

いつからだろうか。恋とか愛とかいう言葉が、透明で純粋なイメージから少しずつカタチを変えていき、「世の中は少女漫画みたいにうまくいきませんよ。現実の男と女の関係はもっとグロテスクで、シリアスで、ドラマチックですよ」ということがわかってくるのは。この『愛がなんだ』で描かれるのは、一人の女性の「好きだ!」という感情の激しい発露である。ここで大事なのは「好き」という感情にもたくさんのバラエティがあるということだ。本作におけるテルコのマモちゃんに対する情熱の源は、もはや恋でも愛でもない得体の知れない何かである。が、その根底には「この人のことが好きだ」という根拠のない理由がどっしり構えている。

世の中知らない方がいい感情もあったりする

好きという感情にもいろいろな種類がある。単純にルックスが好みであったり、自分が持っていないものを相手が持っていることに対する憧れであったり、逆に自分との共通点がたくさんあって親近感が湧いたり。様々だ。それが本作のテルコでは「好きな人と同化したい」というのが一つの面白さであり、同時に怖さであるのだけど。ここで興味深いのが監督の今泉力哉さんが映画の感想を視聴者に訊いてみたところ、この「好きな人と同化したい」願望を持った人が少なからずいたということだ。個人的にテルコの狂信的な執着心は作品を観ていて、ゾッとするんだけど、一方でテルコに共感できる人が他にもいるとなると、改めて人の感情って、自分が考えている(というか信じ込んでいる)よりも、色鮮やかで、バラエティー豊かであることがわかる。一口に「好きだ」「恋だ、愛だ」といっても人それぞれ種類は千差万別。もちろんそこに優劣とか正しい、正しくないという判断は介在しえないのだが、誰かの真意を汲み取るという行為には何かしらの代償を支払わなければいけなさそうだ。

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だけど、映画自体はとても楽しめました!テルコを演じる岸井ゆきのは、すごい魅力的だったし、マモちゃん役の成田凌もよかった。個人的にMVPは塚越すみれなる人物を演じる江口のりこですが、本当にこの塚越すみれさん、いいキャラしてます。こんな人が近くにいたら何か自分が迷ったときに相談にのってもらいたいなぁ。何か人生の闇というか、本当にリアルな部分を良くも悪くも既に知ってしまったような達観さがね、グッとくるわけですよ。

 

そんなこんなで、この『愛がなんだ』けっこうオススメです!小説もとっても綺麗な文章ですし、映画も役者陣の演技が魅力的です。

今年は角田光代作品もたくさん読んでいきたいなぁ。夏の楽しみがまた一つ増えた東京小旅行でした。

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